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札幌高等裁判所 昭和54年(行ケ)1号 判決

原告 佐藤道得

被告 北海道選挙管理委員会

参加人 川原満

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用(参加費用を含む。)は原告らの負担とする。

事実

第一申立

一  原告ら

1  昭和五四年四月二二日執行の下川町長選挙における当選の効力に関し、被告が同年九月七日になした原告らの審査申立を棄却する旨の裁決を取消す。

2  右選挙における川原満(参加人)の当選を無効とする。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも下川町長選挙の選挙人であるところ、昭和五四年四月二二日執行の下川町長選挙(以下「本件選挙」という。)に関し、同月二三日参加人を当選人とする旨の告示がなされた。

2  参加人は、本件選挙の執行当時、下川町に対する関係で地方自治法一四二条所定の主として当該地方公共団体に対し請負をする法人(以下「兼業禁止法人」という。)に該当する下川町森林組合(以下「本件組合」という。)の組合長理事(以下「組合長」という。)の職にあつたのに、当選の告知を受けてから五日以内に公職選挙法一〇四条所定のその関係を有しなくなつた旨の届出をしなかつた。

3  本件組合が下川町に対する関係で兼業禁止法人に該当する理由は次のとおりである。

(1) 本件組合と下川町(昭和二六年三月以前は、下川村)とは、人的には、本件組合が昭和一七年九月に設立されて以来、昭和二八年八月の森林法施行後の一時期を除き、下川町長(右の下川村当時は、下川村長)が本件組合の組合長を兼業し、ことに参加人は、昭和四三年五月の下川町長選挙に当選してから本件選挙の執行までの約一二年間にわたり、右の町長と組合長を兼業し、その間の昭和四六年四月には、下川町がその林政課に直轄させていた町有林の経営を本件組合の請負に移行させ、これに伴い林政課長を町職員の身分を保持したまま本件組合に参事として派遣するなど、緊密な結合関係を有しており、また経済的にも、本件組合の組合員である下川町の町有林は、他の民間組合員の民有林に比べると、面積は三分の一以下であるが林相がはるかに優良であるため、本件組合の全事業に占める町有林経営事業の割合は極めて高く、しかも下川町は本件組合に対し、森林組合助成金、林道開設補助金、林業構造改善事業補助金等の各種補助金を支給して援助、助成するなど、やはり緊密な結合関係を有している。

(2) 本件組合の組合員数は、下川町長選挙の有権者数のわずか六・九パーセント前後にすぎないところ、地方公共団体の長とその議会の議員の各職務と権限を対比すると、兼業による不正、偏重等の不公正な職務執行や職務不専念の弊害を生ずるおそれは、前者が後者よりはるかに大きく、他方森林組合の組合長は組合事業を統轄する立場にあるから、下川町長が森林組合である本件組合の組合長を兼業する場合には、両者の癒着により前記のような弊害を生ずるおそれは極めて大きく、その町長としての職務執行の公正を期し難いというべきである。

(3) 本件組合の本件選挙執行時に最も近い昭和五三年度の事業収入額は、その損益計算書上は、別紙(一)の収入一覧表の損益計算書欄記載のとおり(但しその金額は、単位千円で、千円未満を四捨五入したもの。以下同一覧表記載の金額はいずれも同様。)であるが、その実額である計上されるべき金額は、同一覧表の原告らの主張欄の(A)計上されるべき金額の項記載のとおりであり、そのうち下川町に対する請負額は、同欄の(B)町からの請負額の項記載のとおりである。そして右の(A)、(B)のうち、争いある部分についての原告ら主張額の根拠は、別紙(二)の原告ら主張一覧表記載のとおりである。なお別紙(一)の収入一覧表の受託販売売上及び受託林産売上の計上されるべき金額についての被告の自白の撤回には異議がある。

(4) 本件組合が、下川町に対する関係で兼業禁止法人に該当するか否かは、前示(3)の本件組合の事業収入額に占める下川町に対する請負額の割合の点はもとより、前示(1)の本件組合と下川町との人的、経済的結合関係や前示(2)の下川町長及び本件組合の組合長の各職務と権限からする兼業による弊害の点をも斟酌し、議会の議員の場合より厳格な基準をもつて判定することを要するというべきであり、そうすると下川町長が本件組合の組合長を兼業する場合にあつては、本件組合は兼業禁止法人に該当することが明らかである。

4  そこで原告らは、本件選挙に関し、参加人が当選を失つたことを理由に、昭和五四年五月四日下川町選挙管理委員会に対し異議の申出をしたところ、同月二三日同委員会がこれを棄却する決定をしたので、同年六月一一日被告に対し審査申立をしたところ、被告は、同年九月六日これを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をなし、その裁決書は、同月九日原告佐藤道得に、同月一〇日同谷口銀松にそれぞれ交付された。

よつて原告らは、本件裁決をしたうえ、参加人の当選を無効とする旨の判決を求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2のうち、本件組合が下川町に対する関係で兼業禁止法人に該当することは否認し、その余の事実は認める。

3 請求原因3の(1)のうち、下川町が本件組合に対し原告ら主張の補助金を支給していることは認めるが、その余の事実は知らない。同3の(2)の主張は争う(事実については不知。)同3の(3)のうち、本件組合の昭和五三年度の事業収入が、損益計算書上は、別紙(一)の収入一覧表の損益計算書欄記載のとおりであることは認めるが、その実額である計上されるべき金額は、同一覧表の被告及び参加人の主張欄の(A)計上されるべき金額の項記載のとおりであり、そのうち下川町に対する請負額は、同欄の(B)町からの請負額の項記載のとおりであるので、これに合致する金額は認めるが、その余の金額は争う。そして右の(A)、(B)のうち、争いある部分についての被告主張額の根拠は、別紙(三)の被告及び参加人主張一覧表記載のとおりである。同3の(4)の主張は争う。

ところで本件組合が、下川町に対する関係で兼業禁止法人に該当するか否かは、もつぱらその事業の主要部分が下川町に対する請負で占められているか否かにより決せられ、かつその判定は、できる限り簡明な資料によるべきことが要請されると解されるから、本件組合の計算書類ことに損益計算書に表われた収入の内容にもとづいて行うべきであり、かつそれをもつて足りるというべきである。なお被告は、はじめ別紙(一)の収入一覧表の受託販売売上及び受託林産売上の計上されるべき金額をいずれもなし(〇円)と陳述したが、これは右に主張した立場を前提にしての陳述であつたから、仮にその立場によらず、本件組合の事業量を他の資料を加えて実質的に判定すべしとの立場をとるなら、その計上されるべき金額は右一覧表の被告及び参加人の主張欄の(A)計上されるべき金額の項の該当箇所記載の金額と主張するものであつて、かかる主張をなすことは自白の撤回にあたらない。また仮に右の陳述が自白にあたるとしても、それは間接事実ないし補助事実に関するものであるから、被告を拘束するものではなく、しかも本件訴訟のごとく公共的性質を有する選挙争訟においては民事訴訟法の自白に関する規定の適用がないと解されるから、いずれにしても被告はその自白を自由に撤回できるというべきである。

4 請求原因4の事実は認める。

(参加人)

請求原因3の(3)に対する答弁は、自白の成否、撤回に関する点を除き、被告の主張と同一であり、その余の請求原因については、被告が争つている事実と主張をいずれも争う(弁論の全趣旨から、争つていると認められる。)。

第三立証〈省略〉

理由

一  原告らがいずれも下川町長選挙の選挙人であるところ、昭和五四年四月二二日執行の本件選挙に関し、同月二三日参加人を当選人とする告示がなされたこと、参加人が、本件選挙の執行当時本件組合の組合長の職にあつたが、当選の告知を受けてから五日以内に公職選挙法一〇四条所定のその関係を有しなくなつた旨の届出をしなかつたこと、原告らが、本件選挙に関し、参加人が当選を失つたことを理由に、同年五月四日下川町選挙管理委員会に異議の申出をしたが、同月二三日同委員会がこれを棄却する決定をしたので、同年六月一一日被告に対し審査申立をしたところ、被告が、同年九月六日これを棄却する旨の本件裁決をなし、その裁決書が同月九日原告佐藤道得に、同月一〇日谷口銀松にそれぞれ交付されたことは、いずれも原、被告間に争いがなく、また参加人も明らかに争わないのでこれを自白したとみなすべきである。

二  そこで本件組合が、下川町に対する関係で兼業禁止法人に該当するかについて判断する。

1  本件組合の本件選挙執行時に最も近い昭和五三年度(その事業年度は、成立に争いのない甲第三号証の一、第五号証により、同年四月一日から昭和五四年三月三一日までであると認められる。)の損益計算書上の事業収入額が別紙(一)の収入一覧表の損益計算書欄記載のとおりであることは当事者(参加人を含む。以下同じ。)間に争いがなく、その実額である計上されるべき金額とそのうち下川町に対する請負額についての原告らの主張とこれに対する被告人及び参加人の主張は、それぞれ同一覧表の原告らの主張欄並びに被告及び参加人の主張欄の各(A)計上されるべき金額の項と(B)町からの請負額の項記載のとおりであるところ、これらについての当裁判所の認定額(当事者間に争いのない金額を含む。)は、次の理由(この理由中では、下川町を「町」と、本件組合を「組合」とそれぞれ略称し、また認定証拠は、当該認定事実末尾の括孤内に表示する。)によつて、同一覧表の当裁判所の認定欄の(A)計上されるべき金額の項と(B)町からの請負額の項記載のとおりである。

(1)  指導補助金について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) 町が組合に対し、林業の経営指導や林業に関する教育、広報等の指導事業の経費を補助するための指導補助金として金一〇〇万円を、また町と組合が共同して山火事防止の広報用印刷物を配布し、その印刷代を全部組合が支払つたので、そのうち町の負担分として金四、二〇〇円をそれぞれ交付したことが認められる(成立に争いのない甲第八号証、その方式及び趣旨から真正な公文書と推定すべき乙第三号証、原、被告間では成立に争いがないということから弁論の全趣旨により成立の真正を認める同第一八号証、証人志村柳佐美、同原田四郎の各第一回証言。)。

ところで、地方自治法一四二条の規定は、同法九二条の二の地方公共団体の議会の議員についての規定と同じく、地方公共団体の長を特別な関係のある私企業から隔離し、公正な職務の執行を、主観的にも、客観的にも期するために設けられたと解されるところ、その趣旨に照らせば同法一四二条にいう「当該地方公共団体に対する請負」とは、必ずしも仕事の完成に対し報酬が支払われる狭義の請負契約に限られず、広く営利的、経済的な取引契約を含み、かつそのような取引契約であることが必要であり、しかも右規定が、地方公共団体の長に対し、兼業禁止という継続的な身分的制約を課していることからすれば、それは少なくとも業務としてなされる一定の時間的継続性又は反復性を有する取引契約であることを要すると解される(以下本判決でいう「町に対する請負」は右に述べた趣旨に用いる。)。

ところが前記認定の各交付金は、そのような営利的、経済的取引契約にもとずくものとは認められないから、この点で町に対する請負による収入には該るものとはいえず、ほかにも右請負による収入と認めるに足る証拠はない。

(2)  受託販売売上及び(3) 受託林産売上について

(A) これについて被告は、はじめ、原告らの主張額(〇円)を認めたが、行政事件訴訟法二二条一項により訴訟参加した参加人は右主張額を争つているから、同条四項により準用される民事訴訟法六二条により、その金額につき自白は成立しないというべきである。

ところでこの各勘定科目の損益計算書上の金額は、いずれも組合が、組合員の委託を受け、その所有の林産品を販売したことによる売上額(受託販売売上は、素材生産後の林産品の販売のみの委託を受けたことによるものであり、受託林産売上は、素材生産とこれによる林産品の販売の委託を受けたことによるもの。)を計上したものである(その委託を受けた業務を処理したことによる手数料収入は、後記(5)の販売手数料及び(6)の林産手数料の各勘定科目に計上されている。)ことが認められ(前記甲第三号証の一、第八号証、乙第三号証、成立に争いのない甲第一二号証、証人原田四郎の第一、二回証言、同志村柳佐美の第一回証言。)、そうすると右林産品の販売は、もともとこれを委託した組合員の計算においてなされる取引であつて、その売上金も組合員に帰属し、組合に帰属すべきものでないから、組合の兼業禁止法人の該当性の判定をするうえでは、これをその収入に加えることは相当でないというべきである。

なお被告及び参加人は、右の点に関連して、組合の兼業禁止法人該当性の判定は、その計算書類ことに損益計算書の収入の内容にもとづいて行えば必要にして十分である旨を主張するが、しかしその記載が誤つている場合はもちろん、あるいはその記載が会計計算処理のうえでは誤りではない場合でも具体的な取引の存否とその内容を確定したうえ、その会計計算処理に拘束されることなく、実質に従つてその法的評価をなすべきものであるから、被告及び参加人の右主張は採用の限りではない。

(B) 右理由により、(2)受託販売売上及び(3)受託林産売上は、その額いかんにかかわらず、他に判断を進めるまでもなく、町に対する請負による収入とは認められない。

(4)  林産品売上について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) この勘定科目には、林産事業(委託を受けて林産品を生産する事業及び立木を買取つて林産品を生産し、これを販売する事業。)と買受林産事業(林産品を買取つて販売する事業。)による収入が計上されていることが認められる(前記乙第三号証、成立に争いのない甲第九号証、証人原田四郎の第一、二回証言。)ところ、前者の事業に属する町有林の(イ) 除伐・つる切り・枝打ち代金二〇九万九、七六〇円、(ロ) 間伐代金四五六万六、〇一五円、(ハ) 天然林改良代金二八八万一、三七五円及び(ニ) 造林代金四八二万五、六〇〇円の各収入が町に対する請負によるものであることは当事者間に争いがなく、また前者の事業に属する町有林の(ホ) 絞り丸太代金三〇万七、四〇〇円及び(ヘ) 浅野地先造林代金七万円の各収入(町はこれを昭和五二年度の予算から支出したが、組合はその支給命令ないしは交付の時を基準に昭和五三年度の収入に計上しており、かつこれが組合の従前の取扱に反しているとはみられないので、同年度の組合の収入とみて妨げないと解される。)も右請負によるもの(右の各取引が、前記林産事業に属する取引と異なる内容のものであつたとはみられないので、その収入は右請負によるものとみて妨げないと解される。)と認められる(前記甲第九号証、その方式及び趣旨により真正な公文書と推定すべき乙第二三、二四号証、証人原田四郎の第一、二回証言。)が、後者の事業に属する旧年度繰越材代金三二五万九、二二四円と町有林五三年度材代金七三八万一、九八六円の各収入は、その買受先は町であるが販売先は町ではないと認められる(前記甲第九号証、証人原田四郎の第一、二回証言とこれにより成立の真正を認める乙第一一号証、第一三、一四号証の各一、二。)ので、これは右請負によるものではなく、ほかに右請負による収入を認めるに足る証拠はないから、この勘定科目における町に対する請負による収入は、右の(イ)ないし(ヘ)の合計金一四、七五〇千円(金一、四七五万〇一五〇円。以下単位千円で表示する金額は、いずれも千円未満を四捨五入したもの。)となる。

(5)  販売手数料について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) 町からの販売手数料である(イ) 昭和五三年七月一一日の金一、九七二円と(ロ) 同月一二日の金七、二九六円の各収入は、町との間の販売委託というここでいう請負に伴う収入である(販売手数料の額は、組合規約により、販売額に一定比率を乗じた額と定められているが、このことはその販売委託の取引が右請負に該当することを否定する理由にはならない。)と認められる(前記甲第八号証、第一二号証、乙第一八号証、証人志村柳佐美、同原田四郎の各第一、二回証言。)。

ところで収穫手数料とは、組合員が自己所有の山林からの林産品などを売却した場合に(たとえ組合に委託しないで自ら販売したときでも。)、組合に対する経費負担という意味において売上額に応じて組合に納付すべき組合規約上定められた一種の賦課金ともいうべきものであつて、販売手数料とは性質を異にするものであるところ、町からの収穫手数料としての金二三万円の収入は、右に述べたように、町と組合との取引によるものではなく、組合員としての町がその林産品の売上金額に応じて組合に納めた一種の賦課金である(したがつて販売手数料とはその性質を異にするが、便宜上この勘定科目に計上したとみられる。)と認められる(右の各証拠、成立に争いのない甲第二号証の一。)ので、これは町に対する請負によるものとはいい難く、ほかにも右請負による収入と認めるに足る証拠はないから、この勘定科目における右請負による収入は、右の(イ)、(ロ)の合計金九千円(金九、二六八円)となる。

(6)  林産手数料について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) 町からの林産手数料である(イ) 昭和五三年六月三日の金二、九二一円、(ロ) 同年六月二六日の金四、一四三円、(ハ) 同年八月一五日の金四、〇八七円、(ニ) 昭和五四年二月一〇日の金一、一八六円の各収入は、いずれも町に対する請負によるもの(林産手数料は、前記(2)及び(3)の(A)に認定したとおり、素材生産及びこれによる林産品の販売を受託して得られる手数料収入であるが、そのうち素材生産に関する手数料が右請負によるものであることは明らかであり、またこれによる林産品の販売に関する手数料も、前記(5)の販売手数料と同様の理由により、組合規約によりその額が販売額に一定比率を乗じたものと定められてはいるが、やはり右請負によるものというべきである。)と認められる(前記甲第八号証、第一二号証、乙第一八号証、証人志村柳佐美の第一回証言、同原田四郎の第一、二回証言。)が、昭和五四年三月三一日の林産手数料である金一一万三、〇四四円(間伐手数料)は、武藤寅一ほか七名との間の取引にもとづくものであつて、町との取引によるものではなく、その収入も町からのものではないと認められ(前記甲第八号証、証人原田四郎の第二回証言により成立の真正を認める乙第一六号証の一ないし三、同証人の第一、二回証言及び証人志村柳佐美の第一回証言。)、したがつてこの勘定科目における右請負による収入は、右の(イ)ないし(ニ)の合計金一二千円(金一万二、三三七円)となる。

(7)  購買品売上について

(A)、(B)とも当事者間に争いがない。

(8)  養苗品売上について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) この勘定科目には、組合が生産した種苗を販売したことによる収入が計上されていると認められ(前記甲第八号証、第一二号証、乙第三号証、証人原田四郎の第一回証言。)、そのうち金二、〇五九千円の収入が町に対する請負によるものであることは当事者間に争いがないところ、これは町からの(イ) トドマツ苗木代金一三八万〇、六九〇円と(ロ) アカエゾ苗木代金六七万七、八二〇円に該るものと認められる(右の各証拠、証人志村柳佐美の第一回証言、弁論の全趣旨。)が、このほかに町との養苗品売上の取引による収入として、(ハ)トドマツ苗木代金六万一、七〇〇円と(ニ) カラマツ苗木代金八、三二〇円があり、これらも右請負によるもの(これらの取引にかかる苗木は、町がその林業に用いるためではなく、町民に苗木を配布するため、あるいは林道工事で被害を与えた他人の山林の補修のため購入したものではあるが、その取引自体は、それまでに町と組合との間で反復してなされていた養苗品売上の取引の一環として、ないしはこれに随伴してなされたものとみられるから、単なる一取引とはいい難く、したがつてその収入は右請負によるものとみて妨げないと解される。)と認められる(前記甲第八号証、証人原田四郎の第二回証言により成立の真正を認める乙第一九号証、同証人の第一、二回証言及び証人志村柳佐美の第一回証言。)ので、この勘定科目における右請負による収入は、右の(イ)ないし(ニ)の合計金二、一二九千円(金二一二万八、五三〇円)となる。

(9)  購買雑収入について

(A)、(B)とも当事者間に争いがない。

(10)  受託森林経営収入について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) この勘定科目には、除間伐事業(除間伐の受託)と下刈事業(下刈の受託)による収入が計上されていると認められる(成立に争いのない甲第一〇号証、証人志村柳佐美、同原田四郎の各第一回証言。)ところ、後者の事業に属する(イ) 町有林下刈代金一〇、二六三千円の収入が町に対する請負によるものであることは当事者間に争いがなく、また前者の事業に属する(ロ) 町建設課発注による除間伐代金二四万六、六〇八円(原告ら主張の金二七万七、〇一四円の金額から各種保険料金三万〇、四〇六円―これは本来組合に帰属すべきものではないから収入とまでは認められない―を控除したもの。)の収入も右請負によるもの(右除間伐の作業は、町の職員の指図のもとになされたもので、組合はその作業に必要な労務や機材を供給したにすぎないが、しかしその対価である右除間伐代金は、除間伐の委託の場合と同様に、その作業に従事した労働者の賃金等の費用に所定の手数料を加算した金額と定められたものであるから、これを実質賃金とみなすことはできず、したがつてその収入は右請負によるものとみて妨げないと解される。)と認められる(前記甲第一〇号証、証人原田四郎、同志村柳佐美の各第一回証言。)から、この勘定科目における右請負による収入は、右の(イ)、(ロ)の合計金一〇、五一〇千円((イ)の金一〇、二六三千円に(ロ)の千円未満を四捨五入した金二四七千円を加えたもの。)となる。

(11)  造林収入について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) この勘定科目には、造林の請負及びその他の雑役の請負による収入が計上されていると認められ(前記乙第三号証、成立に争いのない甲第一一号証、証人志村柳佐美、同原田四郎の各第一回証言。)、そのうち(イ) 金九、四七三千円が町に対する請負による収入であることは当事者間に争いがないところ、これは町有林の造林を請負つたことによる収入に該ると認められる(右の各証拠)が、このほかに町との造林収入の取引による収入として、(ロ) 桜ケ丘公園作業代金九万二、四〇〇円、(ハ) 中学校スキー場刈払代金五万六、八〇五円、(ニ) ウエンシリ登山道刈払代金九万〇、一五〇円、(ホ) 鉱山スキー場刈払代金一三万二、七〇〇円、(ヘ) ピヤシリ登山道刈払代金五万二、三七八円があり、これらはいずれも町に対する請負によるもの(右の各作業につき、組合は、前記(10)の(B)の(ロ)の場合と同様に、労務や機材を供給したにすぎないが、その代金は、造林や雑役の請負の場合と同様の算定方式により定められているので、これを実質賃金とみなすことはできず、したがつてその収入は右請負によるものとみて妨げないと解される。)と認められる(右の各証拠)が、上名寄一四林道刈払代金五万二、五〇〇円(前記甲第一一号証には、これにつき金五万一、八九二円と記載されているが、これは算定を誤つたもので、実際の収入額は表記金額である。甲第八号証の二一丁一一段目参照。)は、後記(12)の林道工事収入に計上され、この勘定科目の(A)の収入には計上されていないものであり、また土質調査作業代金四万九、六〇〇円は、町(自治振興課)から土質調査の委託を受けた北海道工業試験場職員皿井博美の依頼により、組合が同人にその調査のための労務を提供し、その対価として同人から支払を受けたもので、町からの収入ではないことがそれぞれ認められる(右の各証拠、前記甲第八号証、乙第一六号証の一、その方式及び趣旨により真正な公文書と推定すべき同第一七号証の一、二、証人原田四郎の第二回証言。)ので、この勘定科目における右請負による収入は、右の(イ)ないし(ヘ)の合計金九、八九七千円((イ)の金九、四七三千円に、(ロ)ないし(ヘ)の合計金四二万四、四三三円の千円未満を四捨五入した金四二四千円を加えたもの。)となる。

(12)  林道工事収入について

(A) 少なくとも金二三、七四〇千円の林道工事収入があつたことは当事者間に争いがないところ、このほかに町が組合に対し、民有林林道開設事業補助金(昭和五一年度からの民有林整備五か年計画の事業費につき、組合負担分を助成する趣旨のもの。)として金五〇〇万円を交付したことが認められる(前記甲第二号証の一、第一二号証、その方式及び趣旨により真正な公文書と推定すべき丙第一号証、証人原田四郎の各第一回証言。右認定に反する部分の証人志村柳佐美の第一、二回証言は信用し難い。)ので、この勘定科目における収入は、右の合計額である金二八、七四〇千円となる。

もつとも右補助金としての金員の交付は、昭和五〇年一二月の町議会における昭和五一年度から昭和五五年度までの各年度に金五〇〇万円ずつを右補助金として支出する旨の債務負担を承認する議決にもとづくものであるが、その同じ町議会で、町が組合からその所有の下川町モサンル所在の山林一二八・五七五ヘクタールを代金四〇〇万円で買取ることを承認する議決がなされ、これにもとづきそのころ町と組合の間で右内容の売買契約が結ばれたが、その売買代金は、その取得価額に造林費等の管理費用を加算した程度のもので、当時の時価(その具体的な金額は明らかではないが、少なくとも金一、〇〇〇万円を下まわることはなく、当時の組合理事会では、その評価額につき金二、九〇〇万円程度との試算もなされていた。)と比べると著しく低廉であつたこと、また組合の昭和五一年度から昭和五三年度までの林道工事事業は、少なくとも事業管理費(人件費、事務費等)を除外したその部門(町有林関係を含む。)のみにおける損益をみる限り利益を生じていることがそれぞれ認められ(前記各証拠、前記甲第三号証の一、成立に争いのない同第三号証の二、三、第一四号証、証人渡部重盛の証言。)、これらの事実からすると、右補助金についての債務負担は、その全部又は一部を右山林の売買代金の上のせ分に充てる配慮のもとになされたとの疑いがかなり生ずるが、しかしさらに進んで町と組合の間でその補助金に相当する金額を―実質的にも―売買代金に含める旨の合意が成立したとまでを認めるに足る証拠はなく、そうすると町の組合に対する右の金五〇〇万円は、それが適正な公金の支出か否か―補助金支出の適否ないし当否が町政上の―問題となることはあるにしても、あくまで補助金として交付されたとみるほかないので、これを右山林の売買代金であるとする原告らの主張は採用することができない。

(B) 町からの(イ) 基幹作業道工事収入金一、二八六万円、(ロ) 造林作業道(上名寄東部作業路)工事収入金三六三万円、(ハ) 由仁内沢林道刈払収入金三〇万二、八五二円及び(ニ) ペンケ第四生産林道工事収入金二六六万五、〇〇〇円のうち金一四〇万円が、いずれも町に対する請負によるものであることは当事者間に争いがなく、また町からの(ホ) 東部林道支障木除伐収入金一一万九、〇〇〇円及び(ヘ) 上名寄一四林道刈払収入金五万二、五〇〇円(前記(11)の(B)において除外したもの。)も右請負によるもの(右の(ホ)、(ヘ)及び町に対する請負によるものであることにつき争いのない右の(ハ)の各作業につき、組合は、前記(10)の(B)の(ロ)や前記(11)の(B)の(ロ)ないし(ヘ)の場合と同様に、労務や機材を供給したにすぎないが、これについても右の各場合と同じ理由で、その収入は右請負によるものとみて妨げないと解される。)と認められる(前記甲第八号証、第一一、一二号証、証人志村柳佐美、同原田四郎の各第一回証言。)が、右のペンケ第四生産林道工事収入のうち金一二六万五、〇〇〇千円は、北海道森林組合連合会の組合に対する助成金として交付を受けたものと認められる(前記甲第八号証、第一二号証、乙第一六号証の一、証人原田四郎の第一、二回証言。)ので、これは町からの収入ではなく、またサンル南部林道工事収入金一〇四万四、七四二円のうち金三九万六、〇〇〇円は、秋葉義春ほか八名が北海道からの補助金五二万九、七四二円を得てその所有の山林内に右林道を開設する工事を組合に委託したが、これにつき町も、右林道を利用する利益を受けることになるため、その受益者として、右補助金ではまかなえない工事代金のうち金三九万六、〇〇〇円を負担する(その余の金一一万九、〇〇〇円は、右委託者が負担する。)ことを承諾し(組合に対しても承諾したとみられる。)、その負担金として町から支払われたものであると認められ(前記甲第二号証の一、第八号証、第一二号証、乙第一六、一七号証の各一、証人原田四郎の第一回証言。)、そうすると町は、右の工事委託契約につき、その受益者として工事代金の一部負担を承諾したが、その契約の当事者となつたわけではなく、しかも右のような受益者負担の承諾が、それまでの町と組合の各種取引との関連で継続性ないし反復性を有するものであることを肯認すべき証拠はないので、右収入は町に対する請負によるものとは認め難く、そうするとこの勘定科目における右請負による収入は、右の(イ)ないし(ヘ)の合計金一八、三六四千円(金一、八三六万四、三五二円)となる。

(13)  山林売却代金分割金について

(A) 町からの民有林林道開設補助金としての交付金五〇〇万円が原告ら主張の山林売却代金とはみられないことは、前記(12)の(A)に説示したとおりであるから、これをこの勘定科目における収入に計上することはできない。

(B) 右理由により、この勘定科目においては、町に対する請負による収入も存しない。

(14)  利用料について

(A) この勘定科目には、林業用の車両、重機類の使用料としての収入が計上されているところ、損益計算書に計上された金二五、七二四千円(金二、五七二万三、八八一円)のうち、金二、一一一万〇、四八三円は、いずれも組合が、前記(10)受託森林経営収入、(11)造林収入等の各事業をなすうえで、自ら使用し又は他に使用させた車両、重機類につき、その使用料を算定して計上したものであつて、これらはいずれも右の各事業による収入と重複するものであり、他方その余の金四六一万三、三九八円は、右の各事業による収入とは重複しない利用料収入であるとそれぞれ認められる(前記甲第八ないし一二号証、証人志村柳佐美の第一回証言。なお証人原田四郎の第二回証言とこれにより成立の真正を認める乙第二〇号証のうち、右認定に反する供述部分や記載部分は、いずれも右認定証拠に照らし措信できない。)ので、この勘定科目における収入は、右の金四、六一三千円(金四六一万三、三九八円)となる。

(B) 右の重複しない利用料収入のうち、町からの(イ) ダンプ使用料金八万二、五〇〇円、(ロ) マイクロバス使用料金五万円、(ハ) トラツク(金八万四、〇〇〇円)・ブル(金七、四二五円)使用料金九万一、四二五円、(ニ) ブル使用料金九万八、一〇〇円及び(ホ) スタウト(金四万八、〇〇〇円)・ブル(金三万四、六五〇円)使用料金八万二、六五〇円は、いずれも町に対する請負によるもの(右の各取引は、それまでに町と組合の間で反復してなされていた利用料取引の一環としてなされたものとみられるから、単なる一取引とはいい難く、したがつてその収入は右請負によるものとみて妨げないと解される。)と認められる(前記甲第八号証、第一二号証、乙第一九号証、証人原田四郎の第二回証言。)が、ほかには右請負による収入を認めるに足る証拠はないので、この勘定科目における右請負による収入は、右の(イ)ないし(ホ)の合計金四〇五千円(金四〇万四、六七五円)となる。

(15)  調査収入、(16) 病虫害防除収入、(17) 共済保険手数料、(18) 造林補助金取扱手数料及び(19) 造林補助金について

(A)、(B)とも当事者間に争いがない。

(20) 林構補助金について

(A) 当事者間に争いがない。

(B) この勘定科目における町の組合に対する林業構造改善事業補助金は、組合が事業主体となつて行う林業構造改善事業について、その経費を補助するために交付された補助金(その財源の大部分は、国と北海道が、北海道を通じて町に交付する補助金によるもので、金二〇〇万円が町自体の補助金である。)であることが明らかである(前記甲第二、三号証の各一、成立に争いのない乙第九号証、第二一、二二号証、証人原田四郎の第一回証言により原本の存在及び成立が認められる乙第一〇号証、同証人の第一、二回証言。右認定に反する部分の証人志村柳佐美の第一、二回証言は信用し難い。)から、これは町に対する請負による収入には該らないというべきである。

(21) 農林漁業資金貸付利息、(22) 農林漁業資金取扱手数料及び(23) 金融雑収入について

(A)、(B)とも当事者間に争いがない。

2(1)  右によれば、本件組合の本件選挙執行時に最も近い昭和五三年度における総事業収入は金一八五、一三五千円で、そのうち下川町に対する請負による収入は金六一、二一四千円となり、後者の前者に占める割合は約三三パーセントになる。

(2)  地方自治法一四二条後段の規定にいう「主として同一の行為をする法人」(本件では、その主として同一の行為として、請負をなす法人かどうかが問題となつているだけであつて、他の条項部分に該当するかどうかは問題となつていない。)の意義は必ずしも明確ではないが、少なくとも当該法人にとつて当該公共団体に対する請負の取引が単に重要であるにとどまらず主要なものとなつていることが必要であり、しかも「主として」との用語からみれば、他に類似の取引先を許容し得ないような取引額、すなわち当該法人の総事業収入額の半額を超える請負取引であることを必要とすると解されるところ、本件組合の右事業年度における右割合がそれ以前の事業年度と比べて特異的に低率であつたことを窺わせるような格別の証拠は存しないので、本件選挙執行当時下川町は、本件組合にとつてもつとも重要な取引先であつたということはできるにしても、いまだ同町に対する請負が本件組合の業務の主要部分を占めていたとまではいい難く、そうすると本件組合は、同町に対する関係において兼業禁止法人には該当しないというべきである。

なお原告らは、本件組合と下川町との間には、緊密な人的結合関係があるうえ、右請負のほかにも、各種補助金の交付などにより経済的にも密接な関係を保持していること、地方公共団体の長が右のような関係にある森林組合の組合長を兼業する場合には、議会の議員が主体となり、または他の法人ないし他の役職を対象とした兼業の場合に比べると、癒着による不公正な職務執行や職務不専念等の弊害を生ずるおそれがはるかに大きいことなどを挙げ、下川町に対する関係で本件組合の兼業禁止法人該当性を判定するうえでは、右のような諸事情を斟酌すべき旨を主張するが、しかし地方自治法九二条の二及び一四二条の法意に照らすと、当選の有、無効を決することになる兼業禁止法人該当性の判定は、その主体が地方公共団体の長であるか議会の議員であるか、また対象となる法人や右法条に定めるその役職の如何を問わず、当該地方公共団体に対する当該対象法人の請負がその業務の主要部分を占めるか否かにより一義的に決せられるべきものと解すべきであり、原告ら主張の前記諸事情は右要件に関しないものであり、また仮にそのような諸事情を兼業禁止法人該当性の判定にあたり斟酌すべきものとすれば、その判断に裁量の余地を生じ、選挙における法的安定性を著しく害することになつて相当でないから、いずれにしても原告らの右主張は採用できない。

三  以上によれば、本件組合は、下川町に対する関係で兼業禁止法人に該当せず、本件選挙執行当時その組合長であつた参加人は、その関係を有しなくなつた旨の届出をしなかつたからといつてその当選を失うことはないから、当選を失つたことを理由とする原告らの審査申出を棄却した本件裁決は、理由において一部異なることはあるが、結論において相当である。

よつて本件裁決の取消と本件選挙につき参加人の当選の無効を求める原告らの本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用(参加費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奈良次郎 藤井一男 喜如嘉貢)

別紙(一)~(三)〈省略〉

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